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「雷の季節の終わりに」 [reading]

 ううむ。
 と言うのが読み終わっての感想。
 取り敢えず、「風わいわい」と言う名前が気に入った。どっからそう言うの引っ張り出してくるんだろうな。

 最初のうちは、この人らしい幼年期、少年期の無意識な聡明さと無感動な残忍さがきれいなコントラストを描き出してると思って読み進んでいたのだけれど、今回、恐らくこの人がプロになって初めて描いた長編で、そう言う意味でのいくつか新しく挑戦したプロットがあっただろうと思わせるぎこちなさみたいなものも多少感じられた。

 特に、茜が最後文字通り「飛び出して」来たのにはぎょっとした。鬼衆を監視するという行為が、穏の因習に相反するんじゃないかと思ってなかなか腑に落ちなかった。まあ良くも悪くも暗殺集団だから、いかに半ば公の組織だとしても、確かに監視は必要かもしれない。ただ、その鬼衆がなぜ「日本側」に住んでるの?そこが分らなかった。「日本」に出ることを許された穏の人間て?ましてやそんな奴らの「依頼」をなぜ鬼集が引き受けるいわれがあるんだ?また逆に、穏を出ることを許されて「日本」で暮らしてたのが、なぜある日突然鬼衆に殺されなきゃいけない?
 最後に出てきた後出しジャンケンみたいなプロットに「ああそうなんだ」と思わざるを得なかったのが残念だった。

 なぜ少年期にこだわるのか。当人でなければそのこだわりの真意は分らないだろうけど、でも「お化け」の話を描くときに主人公が大人であっては確かにファンタジーの雰囲気は作り出せないだろうなと思う。子供だからこそ、子供が子供であると言うだけで実存する世界の透明さや、そこに理不尽に降りかかってくる現実の残忍さが際立つんだと思う。つまり子供ってだけで、成人してしまった私達には既にファンタジーなんだと思わせられる。
 「夜市」にも見られる、悪い人を「成敗」するスタイル、勧善懲悪のプロットにも、ストーリの中枢に「子供」っていうテーマが据えられているからだろう。

 長編にした分、今回は作品のドラマ性と言うものに大分ページ数を裂いていると思った。ドラマ性といってもとどのつまりキャラを掘り下げると言う行為に他ならないんだけれども、それをプロットの組み方で単純にならないように工夫している。「夜市」では物語の視線が固定されていて時間の主軸が決まっていたけれど、「雷」では主人公と脇役と悪役の視点でそれぞれのドラマを掘り下げることで、時間の方向性に描いて見せた。多分この辺は新しく試みたことなんではないだろうか。ただそこに奇を衒ったということはないと思う。今時めずらしくもない構成だと思うし。ただそうでもしないと自分の語り口調からストーリーが怠惰になりすぎると思ったんじゃないかな。この辺のテクニックはちょっとこの人らしくもないと思ったから。私は「夜市」のあの平坦なストーリーが好きだった。そのほうがこの人らしい美文が生きると思う。

 「お化け」の話ってそんなに読んだことないけれど、この人は好きなだけあってさすがに「お化け」の話らしい描写が上手だと思う。映像としてはありきたりな表現も、文章で同じ様に表現しようと思えばやはりそれなりに考えなきゃいけないだろうと思う。ましてや私らみたいに視覚での認識が活字での伝達を先行する文化にあっては。なので、この人の「お化け」の表現には「へえ」と思わせられることがしばしばある。キングとかもよく読んでたのに、こういう文学的に端正な文章には出会った記憶がないな。原文で読んでないから、そう言う批評は不公平なのかもしれないけど、キングとかコニー・ウィリスなんかは表現としてはかなり直接的な気がする。アメリカ人らしいと言えばそうかもしれないし、ジャンルが娯楽に偏ってるからと言うのもあるかもしれない。

 今まで書いた宿題リストに「夜市」がなくて、「夜市」を読んだのってそんなに前だったかなぁと思ってちょっと驚いた。そうだっけ。「夜市」を買ったときホラー何とかって賞を獲ってるって帯を読んだのが理由だったと思うんだけど、「雷」のプロフィールにはその後直木賞も取ってるって書いてあって再び驚いた。へえ。まあ確かによくまとまった作品ではあると思うけど、直木賞ってもっと硬派な作品に与えられるものだと思っていたのでちょっと拍子抜け。友達からは大衆作品に与えられるもんだとも聞いているので、結構売れたのかしら。

 1stアルバムの売れた新人アーティストは2ndで必ず伸び悩む。Linkinだって4作目まで実験に実験を重ねてたみたいなもんだ。
 今後の成長を楽しみに待ちたいと思った。


雷の季節の終わりに


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